「まず生人は地球でもキュア星でもない、他の惑星から来た宇宙人だ。簡単に言えば惑星間を旅するヒーローといったところだ。つまりはお前達の大先輩だな」 宇宙人。そう言われると先程の触手や傷の治りもイクテュスのものではないと説明できる。 「その……さっきはごめん。弁解は難しそうだったし、君達の本気を見ておきたくて……でも傷つけるつもりはなかったんだ」 確かに私達への攻撃は明らかに手加減されていた。一度触手に弾かれたがあれも本来だったら変身を保てなくなるレベルまで追い詰められていただろう。 「それって本当に信じていいのかな? さっきまでの彼はとても邪悪そうに見えたけど……?」 「そ、それは本当にごめん。過去に戦った奴らを参考にしてみたんだけど……」 「そうだ。生人は今回の件を無償で手伝ってくれるくらいには良い奴だ。今までイクテュスの索敵ができたのもこいつのお陰だしな。 言えなかったのは……すまない。キュア星や日本政府との取り決めで極力生人は介入させてはいけないんだ」 点と点が線で繋がる。 何故キュアリンが今まで索敵方法を教えなかったのか。生人君の存在を隠していたのか。 キュア星のメンツや地球とのこれからの関係。様々な大人の事情が絡み合っているのだろう。 「はぁ……そういうことかよ……なんだか必死になって損した気分だよ」 アナテマは肩を落とし、全力疾走後のこともありそのまま腰を落とす。 「生人さんの件は分かったよ。それよりさっきのモグラ……あれはイクテュス……なのかい?」 「何言ってるのノーブル? どう見てもあれはイクテュスよ。流石に」 「いや……ノーブルの言い分ももっともだ。今までイクテュスは水棲生物だけだった。なのに今回はモグラ……何かおかしい。嫌な予感がする……」 直近で戦ったイクテュスは、エビに亀にイカと確かにどれも水中や水の側に住む生き物達だ。 「とはいえ倒さないわけにもいかねーだろ? 今から追いかけるから今度はしっかり配信頼むぞ? あれないと全力出せねーんだからよ」 「それは分かっている……生人。奴の場所は分かるか?」 「モグラとなると……地中じゃ動物に頼もうにも……」 生人君が頭を悩ませているとまた揺れが私達を襲う。だが今度はそこまで大きくない。離れた場所に奴が居るのだろう。 「あっちだ! 配信は頃合
生人君は片手だけでなく両手を触手に変えて無数の攻撃を放ってくる。それらは私達を弄ぶように追い詰め体力を削る。 「しまっ……!!」 触手の足の一部がイリオの片足を絡め取る。 「離っ……」 私が助けようと方向転換するよりも速く、無数の枝分かれした触手が彼女の両手足、首、胴体。全身に纏わりつき締め上げる。 「波風ちゃん!!」 宙に上げられる彼女をなんとか助けようと向かうが、触手達が邪魔して容易には近づけない。 「これっ……くらい……!!」 イリオは触手を掴み強引に引き千切ろうと顔を真っ赤にして万力を込める。 しかしその触手達は後方から飛んできた光の塊が通過した途端全て同時に切断される。 「大丈夫かい二人とも!? それよりこれは……」 ノーブルが両手に光の剣を作り出したまま回転を停止させスタッと着地する。 「アイツは人の皮を被ったイクテュスよ……あとキュアリンはアイツのことを隠してた……敵よ!!」 「キュアリンが……じゃあリンカルも……」 あのノーブルも動揺を隠せず表情に狼狽の色が出ている。だが命のやり取りをする現場だということを思い出しすぐに凛とした顔に戻る。 「ん? 体が……うわっ!!」 生人君の体に異変が起きる。突然後方へ引っ張られるように飛んでいく。 次の瞬間闇から飛び出してきたアナテマに彼は殴りつけられ地面へと叩き落とされる。 「ぐえっ!!」 随分と可愛らしく小さな悲鳴を上げるが、宙でクルリと回転して勢いを殺して着地する。 「ぜぇ……ぜぇ……なんとか間に合ったみたいだな。それで殴っちまったけど、こいつがイクテュス……なのか?」 ノーブルから連絡を受けて全力疾走してきたのか、彼女は激しく息を切らしている。 「そうみたいだわ……キュアリンが隠してた!!」 「なんだって……じゃああいつらは……もしかして翠の件も……!!」 アナテマが生人君へ向ける目が明らかに変わる。 彼が、彼とキュアリン達が翠さんが死んだ件の黒幕かもしれない。その可能性が彼女の中の憎悪を急激に増幅させた。 「みどり……? あっ、あの時の……」 「お前なんかがあいつの名前を言うんじゃねぇ!!」 アナテマは激昂し最短距離で彼の顔面を凹ませる勢いで殴りつける。 しかし生人君はすぐさま触手
「お姉ちゃん達……? ど、どうしたの? それにその服は……」 「あぁえぇっとこれはその……」 生人君にキュアヒーローのことを話すわけにもいかず、私はあたふたしながらもどう言えばいいか足りない頭をフル回転させる。 「待ってウォーター。何でアンタは私達があの時のお姉さん達って分かったの?」 「確かに考えてみたら……おかしい!」 私達の見た目は変身前と比べてかなり変わっている。声も若干変化しているし、髪色にいたっては現実ではまず見ないものだ。 「ちょ、直感だよ! それよりお姉ちゃん達はどうしたの? そんなキラキラな衣装を着て?」 「もしかして……アンタがイクテュスなんじゃないの? 人に化けた……!!」 「ち、違うよ!! ボクはイクテュスなんかじゃない!!」 図星を突かれたかのように生人君は必死に否定する。明らかに動揺しだして私目線から見ても怪しい。 [おいお前ら何やってるんだ!! 今目の前に居るのはイクテュスじゃない!! 今すぐ謝って離れるんだ!!] 頭が痛くなるほど大きな声がテレパシー上で響く。 [ねぇキュアリン……アンタその口振り、生人のこと知ってわよね?] [それは……!!] [彼は一体何者なの!? 変身もしていないのに変身したアタシ達以上のスピードで走ってたわよ!?] [うぅ……それは……] キュアリンは唸り声を上げて黙ってしまう。 [もういい……テレパシーは切るから] 「どうするのイリオ!?」 「とりあえずは無力化する。殺しはしないわ。あとから色々聞くためにもね」 その会話を聞き生人君は目を瞑りゆっくりと深呼吸する。 「ふ、ふふふ……バレちゃったらしょうがないなぁ……」 生人君の目つきが変わる。悪意に満ちたものへと豹変し、こちらを嘲笑うかのようにパチパチと拍手する。 「こんなに早くバレるなんて……まぁいいや。ボクの方が強いんだし。遊んであげるよ。どっちかが死んだ時もう片方がどんな顔するか楽しみ♩」 彼の顔に異常が現れる。まるで虫が這うように肌がボコボコと膨れ上がる。 「はぁっ!!」 一度舌舐めずりした後彼は大振りに腕を払う。明らかに手が届く距離ではないが、私達は直感的に頭を下げる。ボコォン!! と派手な音が鳴り背後の木が切れ落ち地面を揺らす。 「あい
「自転車に追いつく程足が速いその子は誰だろうなーって思ってその子の方を向いたんだよ。それでね……」 温泉に入り終わってテントの中。私達はランプを囲い各々好きな飲み物を持ってきて怪談話を始める。 ここに居るのは私と波風ちゃんと健さんだ。今は彼の番であり中学の頃、スイミングスクールに通っていた頃の話をしてくれる。 「顔がなかったんだよ……目も口も鼻も耳もなぁんにも」 「そ、それって本当にあったんですか?」 「あぁ本当さ。水で濡れた髪が凍りついたよ」 「じゃあその次はどうなったのよ? 本当に体験したことならすぐに言えるわよね?」 波風ちゃんはあまり信じておらず、揶揄う時の口調でヤジを飛ばす。 「もちろんさ。その後異常な速さで俺を抜かして十字路の左側に立ったんだよ。それでこちらに手招きし始めるんだよ。『こっちに来なよ』って言わんばかりにね!」 「ひ、ひぃ〜!!」 私は怖くなりつい波風ちゃんに抱きついてしまう。 「暑苦しいって高嶺」 しかし引き剥がされ私はまた震えながら健さんの話の続きを聞く。 「それでね……その後……」 「その後どうなったんですか?」 「お腹が空いてたから無視してそのまま家に帰っちゃった」 「……え?」 「いやーだってスイミングって凄い体力使うからやった後いつも腹ペコでしょうがなかったんだよ」 物語としてはとても雑な締めだが、それが逆に現実さを増させている。それに健さんならそういう行動をする。 「まぁたけ兄ならそうするでしょうね。幽霊相手にもどけ! 邪魔だ! とか言いそうだし」 「うーん否定できないね……あっ、気付けばもうこんな時間か。じゃあ俺は自分のとこに帰らせてもらうよ。夜遅くまで居るわけにはいかないしね。 じゃ、君達も遅くまで起きずに寝るようにね!」 「はい! おやすみなさい!」 「おやすみたけ兄」 健さんがテントから出て行き二人っきりになる。少し話すが時間も時間で眠気が襲ってき始め限界が訪れる。 「ふぁぁ……そろそろ寝よっか」 「そうね……でももしかしたら橙子さんからの呼び出しがあるかもしれないからブローチはすぐ取れるようにしといてっと……」 念の為私達はブローチを枕元に置いて眠りにつくのだった。 ☆☆☆ 「うーん……ん?」 私は何かの要因で目を覚ます。しかしそれが何
「わーここが温泉かやっぱ広いね!」 あくまでも敷設の温泉なのでそこまで期待はしていなかったが、中は十分満足できるほど広く、風が真っ裸の私達の素肌を撫で早く入浴することを促す。 「あっ、入る前に体洗いなさいマナーよ」 はしゃぎ前しか見えなくなり温泉に飛び入ろうとするが、波風ちゃんに引き止められ体を洗いにいく。 ジャンプーとリンスで髪を綺麗にしてからボディーソープに手を伸ばし全身に泡を塗っていく。 「ちょっともう髪洗い終わったの? 早くない?」 「そう? 家ではいつもこんなもんだけど……」 「はぁ……アンタ髪とか肌とか素材は良いんだからもっと気使いなさいよ。どうせ化粧水とかも使ってないんでしょ?」 「化粧水……? 水素水みたいなの?」 波風ちゃんは髪を洗う姿勢のまま頭を抱え深く溜息をつく。 「とりあえず髪は後でアタシがもう一回洗うから……いいわね?」 「は、はぁい……」 体を大体洗い終えたあたりで波風ちゃんが私の背後に立ち髪を洗い始めてくれる。 指が髪と髪の間に入り込み、頭皮に触れ石鹸が染み渡る。まるでお店のマッサージのような感じで気持ち良くついうとうととしてしまう。 「寝たら頭ぶつけるかもしれないから寝ないでよ」 「ね、寝ないよ!」 私は数回瞬きして意識をこっちに引き戻す。数分後頭を洗い終わり今度は波風ちゃんが自分の体を洗う。 「あっ、じゃあ私が背中を洗ってあげるよ!」 今度は私が背後に立ち屈んで背中にボディーソープを塗る。 「きゃっ! ちゃっとくすぐったいって……あははは!!」 「おっ? 弱点はここかな?」 「ちょっ……やめっ……やめなさい!」 「いてっ!」 波風ちゃんの肘が頭に突き刺さりせっかく洗った髪が崩れる。 「はぁ……アタシ背中は敏感だから指先でなぞらないで。やるなら手のひらで洗ってちょうだい」 「あはは……ごめんね」 今度は気を使って手のひらでボディーソープを塗って泡立てていく。 「んっ……ふぅ……」 私が背中を摩る度に波風ちゃんは甘い声を漏らすのでなんだかイケナイことをしている気がしてくる。 「じゃ、流すねー」 シャワーヘッドを握り背中から流し前も胸にお湯を当て泡を流す。 「ふぅ……じゃあ温泉に入りましょうか」 お湯に当たったせいか波風ちゃんは頬を少し赤らめなが
「おぉ……焼けてきたわね」 波風ちゃんが串をひっくり返し焦げ目のついた肉と野菜を表に出す。その他にもソーセージやとうもろこしなどもあり香ばしい匂いが鼻を刺激する。 「ほら高嶺。これ食べる?」 「うん!」 焼けてきた串を取ってくれて手渡してくれるので、早速肉と野菜を同時に口の中に放り込み咀嚼する。 肉の油を野菜の食感が抑えてくれて、肉厚で柔らかいものが口の中で溶けていく。 「ほら蛇ちゃん食べるー?」 健さんが焼く前の肉をナイフで少し切り、それを割り箸で掴み捕らえた蛇の前に持っていく。 「おぉー美味そうに食うな。案外可愛いなお前」 蛇は肉を飲み込みお礼を言うように舌をチロチロと出す。 「あれ……? 高嶺に波風じゃないか? 見たところ家族でキャンプかい?」 「あれ……橙子さん? 予定があるんじゃ……」 焼きとうもろこしに齧り付いているとここに来られなかったはずの橙子さんが駐車場の方から来る。 「予定が空いたとかじゃないの?」 「いや残念ながらキャンプには参加できないよ。ここに来たのは社会見学の一環といったところかな」 橙子さんの後ろの方には作業服を着て頭にヘッドライト付きのヘルメットを被った大人が数人居る。 「何かあったんですか?」 「うちの会社がここら辺の地質調査をしていてね。でもその機材が何者かに壊されていたらしいんだ。普通の生き物ではありえない大きな力でね」 「まさか……」 直接的な言葉はここでは出せないが三人とも考えることは一緒だ。 [イクテュスの仕業?] [いやまだ分からない……野生生物の可能性もあるしね。これから調べるさ。一応熊とかの可能性もあるから気をつけてくれ] 「じゃあわたしはこれで。まぁ夜の山はそもそも危険だし君達は入らないようにね」 「はいその……橙子さんも気をつけてください!」 「もちろん。君達は心配せずキャンプを楽しんでくれたまえ」 橙子さんは不敵な笑みを浮かべつつ振り返り大人達の方へ去っていく。そして彼らは山の中に入っていき調査とやらを始める。 「今の子がその……先輩のアレかい?」 健さんがソーセージを咥えながらも言葉を選びこちらだけに意図を伝える。 「そうだよ。"高貴"な人だね」 「なるほどね。彼女からも色々話聞けそうだけど、良さそうかい?」 「やめといた方が
「あれ? 生人君ご飯はそれだけなの?」 私と波風ちゃんの間にこの子を挟むように座らせ、私達は各々ご飯を口へ運ぶ。しかし生人君はクッキーのような携帯食しか取り出さない。食べ盛りの男の子とは思えない量だ。こんなのじゃ食べた気すらしないだろう。 「山の中で散歩しながらお昼ご飯食べるつもりだったから……これしか持ってない……です」 ハムスターのようにもぐもぐと、それを少しずつ食べ頬張る。顔の可愛さもあってつい撫でたくなってしまう。 「あっ、それなら私のお弁当少し分けてあげるよ! 足りないでしょ?」 私はタコさんウィンナーを箸で掴み上げて生人君の口元に持っていく。 「ありがとうえっと……高嶺お姉ちゃん」 恥ずかしがりながらも彼はパクりとタコさんウィンナーを口に入れる。段々と表情の強張りもなくなっていき、可愛らしい笑顔をこちらに向けてくれる。 「羨ましい……」 「え? ごめん波風ちゃん何か言った?」 意識が生人君の方に向いていたため波風ちゃんが言った言葉を聞き逃してしまう。手は彼の方に向けたまま親友の方へ向き直る。 「……別に何も」 そうは言うものの彼女は愛想なくそっぽを向いてぱくぱくと無言でお弁当を食べ進める。 「えっと、二人はこの山で変なものとか見たりしなかった?」 「変なもの……? 波風ちゃんは何か見た?」 「うーん何もなかったわね。普通の山だと思うわ」 キャンプ場からここに来るまでの間も特段何もなかった。知識のある健さんなら何か分かるかもしれないが生憎彼は今単独行動中だ。 「何か探してるの?」 「いや……そういうわけじゃないんだけど……」 「でもこんなところに君一人は危ないから早くお父さんとお母さんの所に帰った方がいいよ。ここに居たのが私達だから良かったけど、悪い大人だったら連れ去られちゃってたかもよ!」 実際生人君は小柄で誘拐するにはもってこいの体型だ。 「一人にするのも心配だしアタシ達がキャンプ場まで送ってってあげるわよ。たけ兄にはもう先に戻ってるって連絡したし」 「そうだね。ほら生人君一緒に手繋いでこ?」 食べ終わった弁当を片付け私は生人君の手を引っ張る。 「いや別に手は繋がなくても……」 「恥ずかしがらなくていいよ、ほら!」 すぐに抵抗しなくなり私達三人は山を降りていく。 「アタシとは
「えーと……これはどこに置くんだったかしら?」 「あぁそれこっちだよ!」 キャンプ場に荷物を運び、私達はテントの設置や夜にやるバーベキュー用のコンロの組み立てなどを行う。朝早く起きたこともあり順調に作業は進み、昼前には大体終わる。 「意外に早く終わったわね……」 「あっ! そうだ! どうせならお昼はあの山の上で食べない? きっと良い景色だよ!」 ここは山の中腹辺り。ここからも街は見えるには見えるが背の高い木々もありそこまでだ。確かこの山のてっぺんには小さな塔があり登れたはずだ。 「うーんわたし達は遠慮させてもらおうかな。流石に今から山登りする体力はないよ」 お義父さんと波風ちゃんの両親は体力的に山登りは無理だ。 というわけで頂上には私と波風ちゃん。それに保護者代わりとして健さんの三人で向かうことになる。 「そういえば最近キュアヒーローの活動はどうだい?」 健さんは罠用のペットボトルをポリ袋に入れて背負いガラガラと音を鳴らす。 「前の件からイクテュスは出ていないし特には……でも変身してより機敏に動けるようにトレーニングはしてるわよ。キュアリンにも言われたし」 「そういえば波風ちゃんも結構筋肉ついてきたよねーえいっ!」 私は後ろから波風ちゃんに抱きつきお腹を摘む。前とは違いほとんど掴めず硬くハリがある。 「仲が良いね君達。それはそれとして、トレーニングのしすぎには気をつけなよ。体壊したら大変だし」 「はい……肝に銘じておきます」 私達の代わりはいない。一人でも欠けたらキュアヒーローは足りず人々を危険に晒してしまう。 「ん? 今草むらが動いたか!?」 私達は特に何も聞こえなかったが、健さんは反応を示して道から外れ草むらに入る。 「ちょっとたけ兄!?」 「あぁえっと……二人は先に行っててくれ! 俺も罠を仕掛けたらすぐに行くから……」 健さんはそう言いながらこちらを振り返ることすらせず草むらの奥へと進んでいく。 「はぁ全く。私達は先に行きましょ」 「そうだね。健さん遭難しなければいいけど」 「大丈夫……だと信じたいね」 そこまで迷いやすい山ではないので大丈夫だろうと信じ私達は頂上を目指す。 そこそこ歩き疲れが出始めた頃頂上に辿り着く。 「わぁ……ねぇねぇ見てよ波風ちゃん! 私達の街が見える! あれ
「う、うーん……!!」 ピピピと時計の電子音が鳴り響く。私は時計のアラームを止め珍しく自力で起き上がる。 「ふわぁぁ……なんたか起きれた……」 「おはよう高嶺」 「うわぁ!? な、波風ちゃん!?」 ベッドのすぐ側には波風ちゃんが覗き込むようにして屈んでいた。顔の上半分をベッドの下から覗かせている。 「どうしたの? 今日は私寝坊してなかったよ?」 「アンタは寝坊常習犯だから心配で見に来たのよ。ほらまだ支度あるでしょ? アンタは寝起き悪いんだから手伝うわよ」 「ありがとう波風ちゃん。ごめんね付き合わせちゃって」 「別にいいわよ。それよりまずは早く着替えなさい」 私は事前に準備しておいた山でも動きやすい服に着替える。 「何で波風ちゃんはこんなに私に構ってくれるの? いや別に波風ちゃんのことは大好きな友達だし嬉しいけど気になって」 言葉を選ばずに言えば私と波風ちゃんはかなり性格が違うし、相性も良くないと思うこともある。 波風ちゃんは小言こそよく言うがなんだかんだで十年間ずっと一緒に居てくれるし私のことを気にかけてくれる。 「友達……か。そうね。アンタが危なっかしいから放っておけないのかもね」 「えー酷いよ……もう十四歳だし子供じゃないのに」 「十四はまだ世間的には未成年よ」 「そういうことじゃなくて……むぅ……」 喋りながらも荷物点検などを進めていき予定時刻十分前には家を出れる準備が整った。 「いやーごめんね波風ちゃん。わざわざ来てもらって高嶺を起こしてもらって」 「もぅお義父さん! 私は今日はちゃんと自力で起きたから!」 今日は珍しくお義父さんも同行する。やっと取れた家族の時間で、お義父さんも今日を楽しみにしていて上機嫌だ。 「お義父さん……分かってると思うけど波風ちゃんの家族の前で生き物の話をヒートアップさせないでね!」 「んーっと……気をつけるよ」 お義父さんは研究の話になるといつものゆったりとした口調から豹変しマシンガントークを始めてしまう。波風ちゃんの両親を困惑させてしまったら申し訳ない。 「こっちもたけ兄が偶にやるから問題ないわよ。知識の暴走には慣れてるわ」 「それでも私が恥ずかしいの!」 お義父さんには釘を刺しておき、私達は準備も済んだので車に乗り込む。波風ちゃんは本来向こうの車で行く